創立当時の先端医学は感染症関連の研究が主でした。戦前・戦中の研究成果については、資料も少なく、詳細は明らかではありませんが、散見される著書の記述から腸管感染症と結核を主体とする研究がなされていたものと思われます。戦後、シュワルツマン反応をキーワードとするアレルギー研究と野兎病菌の研究からはじまり、電子顕微鏡の導入によって、細菌やウイルスの超微構造に関する研究が主流となりました。超微形態学的手法を主体とする研究は、麻疹ウイルスのヌクレオカプッシドの超微形態の決定やマウスC型レトロウイルス粒子の研究を経て、やがて成人T細胞白血病の原因ウイルスであるとされたATLV(現在の名称はHTLV-1)粒子の発見へと繋がり、さらに、エイズの病原体であるHIVの細胞内侵入過程の可視化、ヒトの脳に感染して何らかの疾患の原因になっているとされるボルナ病ウイルスの超微形態を明らかにするなど、教科書に残る研究成果を上げてきました。このような研究の背景には、本学が高等専門学校から大学に移行したときの初代学長の専攻が梅毒学であったことも影響しているかもしれません。
その後、一般の研究室における病原微生物の研究は超微形態学的手法から生化学的手法・分子生物学的手法へと変化し、一時レトロウイルスの転写酵素活性を測定する方法を飛躍的に改良するなど、超微形態学から離れる方向に向きました。しかし、超微形態学者が減少したため、学会関係者から超微形態学的手法を中心にした研究室を残すようにという要請を受け、超微形態学を守るため、細菌研究用とウイルス研究用の免疫電子顕微鏡コントラスト増強法を確立し、新たな研究分野の開発を目指しました。
超微形態学の対象としては、細菌とウイルスを主体としました。消毒に関する事故の報告を目にしたことから、地球環境負荷の少ない病原微生物消毒法の確立を目指すこととなり、その研究の成果から内視鏡消毒機が実用化されるなど実践の学問として多大な成果を上げました。現在、地球環境保全のための応用拡大に関する研究を進めているところです。
他方、病原微生物がその病原性を発揮するには一定の微小環境(生体臓器内の環境)が重要であるという認識から、細菌やウイルスから見た環境に注目して研究を進め、菌体外環境がコントロールする細菌細胞内に分子輸送システムが存在することを世界で初めて証明しました。この研究の進展には、細菌内部の超微形態を明らかにすることが必要であるため、細菌細胞内構造物を超微形態学的に観察する方法を確立したところです。
これらの基礎研究は、実学としての医学で、医療に応用されることを目指しており、病気を病原体や宿主の環境の視点で観察する必要があります。そのような視点を研ぎ澄ますためには、疫学的思考が求められるため、衛生行政関係の機関との共同研究の機会を見つけ、疫学的研究も行っています。
また、微生物形態学者数の世界的な減少から、細菌の構造を明らかにする研究が途絶えているため、細菌の解剖学にも着手し、新たな細菌学研究分野の創出を図るなど、超微形態学を活かして宿主の環境だけでなく微生物にとっての環境まで広い視野で、ウイルスと細菌を同時に扱うことのできる世界でもまれな教室です。