基礎ウイルス学研究

アルボウイルスの複製を制御する因子の探索

図1

蚊やダニなどの節足動物によって媒介されるウイルス群をアルボウイルス (Arbovirus) と呼びます。アルボウイルスには、デングウイルス (Dengue virus [DENV]) やジカウイルス(Zika virus) といったヒトに重篤な症状を呈するRNAウイルスが多く含まれることから、我が国でもその流行が懸念されています。しかし、ほとんどのアルボウイルスに対しては特効薬が存在しません。

これまでに我々は、cDNAライブラリースクリーニング法を用いた遺伝子探索において、インターフェロンによって発現が誘導されデングウイルスの増殖を効果的に抑制する細胞性因子としてRepressor of yield of DENV (RyDEN/C19orf66) を同定しました。興味深いことにRyDENはデングウイルスだけでなくチクングニアウイルス (Chikungunya virus) などの他のアルボウイルスの感染も阻害することがわかりました。本プロジェクトではRyDENがもつ抗ウイルス作用の分子メカニズムを生化学的、分子生物学的、そして形態学的に明らかにすることにより、生体の感染防御機構を応用した抗ウイルス薬の開発に寄与することを目的としています (図1)。また、インターフェロンシステムが誘導する他の抗アルボウイルス因子についても解析をおこなっています。

[参考文献]

1) Suzuki et al. (2016) Characterization of RyDEN (C19orf66) as an interferon-stimulated cellular inhibitor against dengue virus replication. PLoS Pathog. 12:e1005357.
2) Hishiki et al. (2014) Interferon-mediated ISG15 conjugation restricts dengue virus 2 replication. Biochem. Biophys. Res. Commun. 448:95.
3) Takahashi et al. (2012) Establishment of a robust dengue virus NS3-NS5 binding assay for identification of protein-protein interaction inhibitors. Antiviral Res. 96:305.


レトロウイルスゲノムの組み込み反応に関する研究

図2

ヒト免疫不全ウイルス (HIV) に代表されるレトロウイルス (Retrovirus) の特徴として、逆転写反応によってRNAゲノムから合成されたウイルスDNAを感染細胞の染色体に組み込むことがあげられます。この現象をインテグレーション(Integration) と言います。インテグレーションがおこなわれると、ウイルスゲノムは染色体の一部となってしまうため、もはやレトロウイルスを体内から完全に排除することができません。これがレトロウイルス感染症の大きな問題です。


図3

レトロウイルスはインテグレーション反応を効率よく実行するために、感染細胞の細胞質でPreintegration complex (PIC) とよばれる高分子複合体を形成します (図2)。本研究では様々な手法を用いてPICに含まれる細胞性因子を網羅的に探索し、それらの因子のインテグレーションならびにレトロウイルス複製における役割を解明することを目的としています。最近では、PICのインテグレーション機能を阻害するキナーゼを発見しました (図3)。こういったウイルス-宿主の相互作用を調べることで、エイズなどのレトロウイルス感染症に対する新しい治療法が開発できるかもしれません。

[参考文献]

4) Tan et al. (2014) Identification of RFPL3 as a novel E3 ubiquitin ligase modulating the integration activity of human immunodeficiency virus type 1 preintegration complex using a microtiter plate-based assay. J. Biol. Chem. 289:26368.
5) Suzuki, Chew, and Suzuki (2012) Role of host-encoded proteins in restriction of retroviral integration. Front. Microbiol. 3:227.
6) Yamamoto et al. (2011) Huwe1, a novel cellular interactor of Gag-Pol through integrase binding, negatively influences HIV-1 infectivity. Microbes Infect. 13:339.
7) Suzuki and Suzuki et al. (2010) Functional disruption of the Moloney murine leukemia virus preintegration complex by vaccinia-related kinases. J. Biol. Chem. 285:24032.
8) Suzuki and Craigie (2007) The Road to chromatin – nuclear entry of retroviruses. Nat. Rev. Microbiol. 5:187.
9) Suzuki, Yang, and Craigie (2004) LAP2α and BAF collaborate to organize the Moloney murine leukemia virus preintegration complex. EMBO J. 23:4670.
10) Suzuki and Craigie (2002) Regulatory mechanisms by which barrier-to- autointegration factor blocks autointegration and stimulates intermolecular integration of Moloney murine leukemia virus preintegration complexes. J. Virol. 76:12376.